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第十六話 「締切が怖い」

Author: 辻野幸枝
last update publish date: 2026-07-08 05:47:43

「……できない」

相沢ひまりは、机に突っ伏した。

窓の外はすっかり暗くなっている。

時計を見る。

午後九時。

机の上には、描きかけのラフが何枚も散らばっていた。

児童向けWeb記事。

テーマは、『春に見られる生き物たち』。

うさぎ。

てんとう虫。

ちょうちょ。

編集者の三浦からは、『子どもが見て、わくわくするような絵をお願いします』

と言われている。

なのに。

全然描けなかった。

「うぅ……」

頭を抱える。

描いては消す。

描いては丸める。

気付けば、ゴミ箱は紙でいっぱいだった。

「何で……」

子猫の絵は、あんなに自然に描けた。

なのに。

仕事になった瞬間、急に描けなくなった。

頭の中に、いろんな声が響く。

『元子役って肩書しかないじゃん』

『オワコン』

『絵なんてたまたま当たっただけ』

違う。

違う。

そうじゃない。

そう思うのに、手が動かない。

「……私、何やってるんだろう」

ぽつりと呟く。

その時。

ピロン。

スマホが鳴った。

画面を見る。

神崎蒼からだった。

【どう?】

たった二文字。

それだけなのに、何だか泣きそうになる。

ひまりは返信する。

【全然ダメです】

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